2015年度新着図書41(3月)・國廣幸亜「実録!介護のオシゴト①~⑤」(秋田書店)  (廣の字はまだれです)

コミックエッセイというジャンルはいわゆる「マンガ」な中身なので、「国語能力!」「文章教育!」「長文読解!」といった教育的目標の課題図書には成りえませんが、扱っている内容はとても現実的で身近な話題ばかりです。だから生徒にはよく触られる=ページを捲ってもらえる本です。(文学全集などは「難しそう」と素通りです)

蔵書にある大判サイズコミック(「日本人の知らない日本語①~④」「よちよち文藝部」「先生と僕~夏目漱石を囲む人々~ 全4巻」「日本人なら知っておきたい日本文学」「ぼおるぺん古事記全3巻」「マンガ西洋美術史全3巻」)も、文章沢山が苦手な生徒に好評です。

 

 

実録!介護のオシゴト―楽しいデイサービス (Akita Essay Collection)

実録!介護のオシゴト―楽しいデイサービス (Akita Essay Collection)

 

 

実録!介護のオシゴト 2―楽しいデイサービス (akita essay collection)

実録!介護のオシゴト 2―楽しいデイサービス (akita essay collection)

 

 

 

実録!介護のオシゴト 4 オドロキ介護の最前線!! (akita essay collection)

実録!介護のオシゴト 4 オドロキ介護の最前線!! (akita essay collection)

 

 

実録!介護のオシゴト〈5〉オドロキ介護の最前線!! (Akita Essay Collection)
 

 

作者の國廣幸亜(くにひろ ゆきえ)さん(各巻中央の頑張っている人)がマンガ家への挑戦中にホームヘルパー介護福祉士として働き描いたマンガで す。1巻(07年刊)には「5年間働いた」とあり、5巻(14年刊)で「もう10年以上描いている」とありますが、2016年現在はマンガ家一筋か現役介 護士かが不明です。

1話が4コママンガ7~11本入りの4~6ページ。1冊で20話~30話。

デイサービス・訪問介護・老人介護保険施設・有料老人ホームで働いた様子を可愛らしい2.5頭身キャラで描いています。

 

基本的に出だしはどんな暴言・衝撃キャラで登場の利用者さんも、最後のコマではしんみり・感動エピソードで締めているので、読むほうはそんなに苦しくなりません。どんな人にもその人が歩んできたその人の人生があるんだとしみじみ実感できる話ばかりです。

そして、喜怒哀楽を惜し気なく出している利用者さんを見ると「自由だな」(たとえ周囲が大変でも)と思い、どんなに記憶が覚束なくなっても打ち込んできたことの記憶(職業や趣味)って無くならないだと思いました。

 

と、 そんな感想を読者に抱かせる作者は実はすごい手腕なのではと思います。絵は可愛らしいですが、出てくる暴言・暴力は冷静に考えると「これに毎日晒される職 員の精神は大丈夫なのか」と心配になるレベルです。普通に愚痴・悪口満載マンガにするほうが簡単です。しかし、必ずどんな人にも良い面を見つけ出してほん わか良い方向に終わらせるのは並大抵の技術ではないです。

高校卒業後に介護の道へ進む生徒が多いので入れました。が、現在介護をしている家族の方・施設で働く方が読むほうが、「あるあるエピソード」「うちだけじゃなかった」と少しでも心が軽くなるのではないでしょうか。

 

※余談ですが、高級住宅街にあるデイサービスでの話には、数々の富豪の方が登場されて庶民とは違う世界が垣間見えます。

 

 

2015年度冬休みに読む本⑥ 三浦綾子「泥流地帯」「続 泥流地帯」(新潮文庫)

再び蔵書点検の手が止まるほど読むのがやめられない2冊に出会いました。(お察しの通り、まだ文庫棚から脱出できません…)

 

泥流地帯 (新潮文庫)

泥流地帯 (新潮文庫)

 

  

続・泥流地帯 (新潮文庫)

続・泥流地帯 (新潮文庫)

 

 

三浦綾子記念文学館がある旭川市にいながら、司書は一冊も読んだことがありませんでした。

www.hyouten.com

文庫棚にこの2冊があるのは○○年間ずっと棚を触っているのでわかりきっていましたが、なぜか手が伸びず。

今回は、文庫本は裏表紙にあらすじが印刷されているという利点が発揮されました。

「大正15年5月、十勝岳大噴火。(中略)泥流が一気に押し流してゆく……。」

なに!?

 

そしてめくったページは、主人公が高等小学校の教師から「農家の子どもは市街の子どもと比べて云々」と小言を言われ唇を噛んでいるシーン。

あれ?噴火は?

だがしかし、大正時代の旭川周辺事情を子細に書いてくれていることに興味が尽きず、ページをめくる手がとまりませんでした。

 

戦前に教師をしていた三浦ならではの、児童側から見た当時の分教場・尋常小学校・高等小学校、そして教師となった主人公から見た子どもを愛おしく思う気持ちなどの描写がかなりの分量を占めています。ですから教員志望の高校生にも読んでもらいたい。

それからこの小説が次へ次へと読者を進める力は、登場人物の立ち位置が(主人公から見て)ころころ変わることにある。主人公・耕作の家族、学校の先生、友達、街の有力者、同じ部落の大人たち、幼馴染へ対する考えです。

耕作の9歳から20歳過ぎまでを描くという考えが変わりやすい年頃というのを除いても、この主人公は周りの状況を素直に取り込み「この人は○○だと思っていたが、実は●●なんじゃないか」「◎◎だと決めつけていたがそんなことはなかった」などきちんと我が身を省みることができる気持ちの良い人物でした。

 

まだまだ語りたいことはありますが、これ以上はネタばれになりそうなので…。

「日進部落」として登場する舞台は北海道上富良野町(日新地区)にありました。(リンク先地図の町域東端には十勝岳山頂が含まれていますね。この一本道を耕作は市街へ・JR富良野線上富良野駅周辺へ通っていたのかしら。北へひょいっとスクロールするとすぐ旭川市です)

また、「三重団体」という名称の通り三重県から集団で入植した地区の話も出てくるので、三重県の人は「泥流地帯」をぜひ読みたまえ!

 

関連記事

・かみふらのの郷土をさぐる会機関誌 1982年発行 日新小回顧録 閉校に寄せて

・かみふらのの郷土をさぐる会機関誌 1990年発行 十勝岳大爆発災害関係の碑

北海道上富良野町公式(行政)ホームページ|上富良野町開拓記念館

旭川市の書店 冨貴堂の記事 作品の舞台・文学碑を訪ねて「泥流地帯」

・かみふらのの郷土をさぐる会 上富良野百年史 1998年発行 上富良野百年史目次

・(上富良野百年史)第8章地域の百年 第2節地区の歴史 2日新 8.02.02日新

・(上富良野百年史)第8章地域の百年 第2節地区の歴史 3草分 8.02.03草分

・(上富良野百年史)第3章明治時代の上富良野 第2節三重団体と移住の展開 2三重団体の移住 3.02.02三重団体の移住

 

 

2015年度冬休みに読む本⑤ トム・スタンデージ[著] 新井崇嗣[訳] 「世界を変えた6つの飲み物」(インターシフト)

 

 

 

 

世界を変えた6つの飲み物 - ビール、ワイン、蒸留酒、コーヒー、紅茶、コーラが語るもうひとつの歴史

世界を変えた6つの飲み物 - ビール、ワイン、蒸留酒、コーヒー、紅茶、コーラが語るもうひとつの歴史

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2015年度冬休みに読む本④ 鹿島茂「『レ・ミゼラブル』百六景」(文春文庫)

 

 

 

 

 

 

「レ・ミゼラブル」百六景 (文春文庫)

「レ・ミゼラブル」百六景 (文春文庫)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2015年度冬休みに読む本③ シュリーマン[著]・関楠生「古代への情熱 シュリーマン自伝」(新潮文庫)

シュリーマンですよ。トロイア戦争ですよ。子供の時の夢を叶えるため、まず金持ちになってから発掘に勤しんだ人ですよ。(大抵の人間は頑張って金持ちになって終わりなのに)

古代への情熱―シュリーマン自伝 (新潮文庫)

古代への情熱―シュリーマン自伝 (新潮文庫)

 

昨日に引き続き、文庫棚を蔵書点検中です。そんな時に手に取ったシュリーマン

表紙のミュケーナイの獅子門は見るたび「格好いいのだからそんな部屋の隅に配置しなくても」と思ってしまう。

 

冒頭のまえがきから引き込まれました。それはハインリッヒ・シュリーマンの死後、「ご主人の自伝出しませんか」話をされたと夫人が書いているのだが、その年号が1891年。

司書は最近グラナダ版「シャーロック・ホームズ」(←わからなければ調べよう)を嬉々として観ているので、ホームズさんがバリバリ活躍中の時代に、シュリーマンの輝ける人生はもう終わっていたのだと衝撃を受けたわけです。

(このように時代物に嵌っていると、A作品の○○年前がB作品の絶頂期だ!などといちいち引き算する楽しみ方があります)

 

1822年に現在のドイツで牧師の息子として生まれたシュリーマンは、8歳まで父の任地であるアンケルスハーゲン村の教区で育った。そこでハインリッヒは村に伝わる不思議なものや幽霊話を見聞きし、父からは古代の歴史を教わり興味を引かれていった。

もう、この時点で人生は決まっていくのですね。8歳になる直前のクリスマスにもらった本(ゲオルク・ルートヴィヒ・イェラー「子どものための世界史」)に書かれていたトロイアの記述に「イェラーはトロイアをきっと見たんだ。(p15)」と、ハインリッヒ少年は将来発掘する決意を固めたようです。

周りにそれを言っても流されるだけだったのに、村の小作人の2人の姉妹だけは信じてくれた、特に同い年のミンナとは「暖かい愛情が生れ、やがて二人は子どもの無邪気さで、永遠の愛と誠を誓い合うまでに(p16)」なったそうだ。「小さな恋のメロディ」じゃないですか!「マイ・ガール」かよ!

現実にはミンナとは遠く、遠く離れ(p19)50年後にこの夢をかなえる時がやってくるのであった…。

 

 

 

ここまでしかまだ読んでません!

どうやら後書きを読むに、シュリーマン本人が一人称で語っているのは全体の4分の1、あとは友人のアルフレッド・ブリュックナーが加筆した形になるようです。

 

三つ子の魂百までならぬ、8歳の夢が50過ぎまで持続する話です。

さらにシュリーマンの凄いところは、なんと15か国語が話せたこと!p26~37にその習得方法が書いてあります。語学に関心がある人はそこだけ読んでも興味深い本です。

 

さて、続きも読みたいし、蔵書点検もせねばならぬし。

 

 

2015年度冬休みに読む本② ケン・グリムウッド「リプレイ」(新潮文庫)

「人生が二度あれば」って何の言葉だっけ?(「傘がない」の人ですね)

 

リプレイ (新潮文庫)

リプレイ (新潮文庫)

 

主人公ジェフリー・ラマー・ウィンストン(ジェフ・ウィンストン)43歳は、 「何か重い物が胸にどかんとぶつかった感じがして(p5)」死んだ。

はい、一行目で主人公死にました。それは1988年の秋のニューヨークでのこと。

そして目が覚めるとそこはアトランタの大学の寮のベッドの上。1963年の春、18歳の大学1年生に戻っていた。

43年分の記憶を持ったまま25年前の自分に戻れたら何をする?というSF小説です。

ジェフは動揺したまま、ルームメイトと話し(88年現在は亡くなっている)、アトランタ一高いビルに向かうもそれはまだ建設されておらず、当時のガールフレンドとデートに行くがけんか別れする。これからどうする自分、88年には通用しなくなる知識を身につけるため勉学に励むしかないのか?!

そしてジェフは全財産を競馬につぎ込む。わかりやすくBTTFのビフ・タネンのようになります。

 

1988年も、1963年に負けず劣らず、2016年からしたら遥か昔になってしまいました。昨日の記事と同じく、原著がアメリカで出版された88年当時18歳で読んだ人は、今現在冒頭のジェフよりも年上の45歳になりました。18で読んだ感想とどう変化するだろう。

2016年に18歳で読んで、2041年(おぅ、東京オリンピックが20年前になってる世界だ)に43歳で読む。

 

ここで「人生が二度あれば」です。井上陽水の歌詞は両親を想っての場面。そして似た内容の映画は「セブンティーン・アゲイン」「バタフライ・エフェクト」「シャッフル」など。(わからなければ、目の前の箱なり手のひらサイズの文明の利器なりを駆使して調べよう。知的好奇心は大事。)

しかし、それらと本書が違う点は、ジェフはそんなこと望んでいなかったということ。実際そんな状況になったら、1991年の自分の肉体に飛ばされるのですよ。そこから人生一発逆転できるだろうか?考えてみてください。

 

 

2015年度冬休みに読む本① いまいまさこ「ブレーン・ストーミング・ティーン」(文芸社)

学校は4月から翌年3月までの年度で動いているので、2016年冒頭であっても「2015年度の冬休み」と位置付けます。

 

さて、日本語を読める全世界の皆さん、本を読んでいますか?

・紙の本に限らず(電子書籍で読む)

・本という形態に限らず(ネット上に公開されている小説、twitterなどで綴られる「文字」なら読んでいる)

といった人も最近増えているのでしょう。

 

「2015年度冬休みに読む本」は、長期休業中に蔵書点検をしている司書が旭川龍谷高校図書館の書籍を手で触れて発見した、読むのが止められないほど面白い紙の本を紹介していきます。

 

ブレーン・ストーミング・ティーン / Brain Storming Teens

ブレーン・ストーミング・ティーン / Brain Storming Teens

 

 

brain storming=頭が嵐になる?

ejje.weblio.jp

 

取り立てて自慢できるものもない高校2年生の山口摩湖は、広告代理店が企画した「コピーライター選手権」がきっかけで、商品の宣伝企画のアイディアを出す高校生ブレーンとなった。摩湖以外に高校の違う2人の女子高生と共に、紅茶のノベルティ開発・チョコのキャンペーン・映画のプロモーションなどを手掛けていく。

自分が何者かも何者になるのかもわからない17歳が、大人社会に参加してアイディアが実現する「仕事」を体験する一種のお仕事小説だ。よって、商品を宣伝する仕組み・動くお金の具体的数字・タレントの素顔に惹かれる主人公・非売品ポスターを巡る事件など、「仕事」ってこんなことをするのかと読者のティーンエイジャーが主人公と一緒になって知ることができる。

出版は2004年だが、原案はある文学賞に応募し落選した1998年のもの。それを2003年に著者がワープロから発掘し、手直しして本となった。

 

こういった近過去の出版物や時代設定を読むと、すかさず「主人公は今○○歳だ」と計算してしまいませんか?98年に高校2年生だったら35歳、04年なら29歳。主人公が作中で憧れていた三原さん(推定年齢35歳)に届く年頃だ。著者が電車内で耳にした女子高生たちの会話に触発されて書いた(それは98年)この本。その時の女子高生や、実際書籍となって04年当時に高校2年生としてこの本を読んだ人たちはそれくらいの年になっているでしょう。

このブログ記事を読んで、「ブレイン・ストーミング・ティーン」を読もうと思ったそこの高校2年生の君。君もいつか35歳になるのだ。それまでどんな「仕事」をして生きていくのだろう。